6May
染め直しや仕立て替えは、昔からの古い着物の再生術。実際に筆者が行ってきた染め直しや仕立て替えをご紹介します。ずっとタンスに入れたままの古いきものが蘇ります。
目次
染め替えとは?
着物をほどいて色を抜染して生成りに戻した生地に、別の色や柄を染める方法。
昔は、着物を作るときに、染め替えを前提に生地を選び、色無地から小紋へと染め替えをして着つぶしました。染め替えとは、生地を無駄にしない方法なのです。
↑この反物の元の色は…?
↑こんな鮮やかな色でした!
脱色した反物
こちら、抜染した反物です。
脱色する前の反物はこちら↓
染め替えに適している着物
画像は、抜染した反物を拡大したもの。元の柄がほんの少し残っているのが見えますか?このように、抜染した反物は、完全に真っ白にならず、かすかに残ることが多いです。
希望の色柄にもよりますが色無地は柄がないので、染め替えしやすい着物と言えます。
染め替えの金額
以下にご紹介する小紋染は5万円弱でした。この金額は、着物をほどいたり抜染したりする染下加工と、染代の合計です。
無地染めでしたら、小紋染の半額くらいではないでしょうか。
信頼できる呉服屋さんを経由して染めてもらっています。
染め替え実例集
最近の染め替え4点です。上の画像が染め替え前。下が染め替え後。
画像を拡大してもらうと、共通した地紋や生地の風合いがわかり、正真正銘の染め替え実例がわかっていただけると思います!
小紋へ染め替え1
真っ赤な色無地をグラデーションの小紋に染め直しました。光沢の強い生地なので、あえて地味な色に染めました。これなら、この先ずっと着れそうです。
小紋へ染め替え2
オレンジの色無地を麻の葉小紋へ。四点のうち、この着物の生地が一番薄く、あまり上等ではなさそう。しっかり「お直し診断」してもらってから、お任せしました。期待してなかった分、出来上がりに大満足です。
小紋へ染め替え3
濃紫の江戸小紋を黒地の小紋へ染め替えました。刺繍紋が入っていたり、茶シミがあったりして心配でしたが、きれいに染め上がりました。
この江戸小紋は四丈(着物一着分+裏地。通常よりも長い)あり、共八掛(表地と同じ柄の裏地)がついていました。染め替えするときも同じように染めてもらうことに。表地と裏地がお揃いの模様になりました。既製品にはないものなので、そのオリジナル感がうれしいです。
小紋へ染め替え4
ベージュの色無地を七宝小紋に染め替えました。叔母から譲り受けたこの色無地は、一度も袖も通してないのに色ヤケ(=着物の色ムラ、退色。紫外線などが原因)が広範囲に。
色ムラがあったものの、淡色の小紋に染め替えることができました。
色かけとは?
左は染め直し前、右が染めた後
色かけとは、抜染せずに別の色を重ねて染める方法。薄い色を染めれば、模様を活かすことができ、濃い色を染めれば、色ヤケやシミを隠すことができます。
筆者は、紬などの抜染できない着物や、着物の模様を消したくない時に色かけをしました。
染め替えと違い、「元の色+新しい色」が染めかけ後の色となります。そのため、仕上がりの色指定はできません。染物屋さんの経験やセンスにお任せしています。
色かけの金額
2万円くらいでした。こちらは、地域の染物屋さんでお願いしました。
色かけ実例集
筆者の染めかけ実例です。ずいぶん前にしたもので、色かけ前の写真を保存しておりません。いずれも、地色が白系統の薄い色でした。
夏大島紬の色かけ
上のはぎれ画像↑が、夏大島紬の「染めかけ前」と「染めかけ後」。
知人から譲り受けた夏の大島紬です。広範囲にあった茶色のシミが抜けなかったので、濃色を色かけすることにしました。
絣模様は残念ながら目立たなくなってしまいましたが、濃いブルーは見事にシミを隠してくれました。
同時に丈や幅も大きくして、自分サイズに。上前と下前を交換してスレ(=摩擦で絹が毛羽立ち白く見える状態。)の問題も解消。とても着やすくなりました。
羽織の色かけ
もとは礼装用として着ていた祖母の絵羽織。真っ白な地色に、ラメ入りの花柄刺繍がすごく派手でした。
「縫い取りの刺繍糸は色が染まらない素材を使っているから、意外とおもしろいものができるかも。」と、色かけをおすすめされました。
地色をグレーにすることで、柄とのコントラスが低くなり、以前より落ち着いた印象になりました。絵羽模様の柄をあえてずらし、おしゃれ用の長めのコートに仕立て替えてもらいました。
レトロな着こなしで重宝してます。
訪問着の色かけ
母の若い頃の単衣の訪問着。地色のアイボリー色があせて、シミも浮き出て、いかにもお下がりの古い着物という雰囲気。
でも、今ではめずらしい本ロウケツ染なので、何とか復活させたいと相談。
「手描き染めの色かけは、印象が変わります。期待通りにならないかも。」と言われましたが、思い切ってお願いすることに。
淡いベージュをかけてもらい、結果、柄を引き立てながらシミも隠れ、期待以上の仕上がりになりました。
裏地をつけて、フルレングスの塵除けコートに。褒められコートになりました。
染め替えや色かけのメリット
染め替えや色かけは、コストのかかるお直しです。しかし、同時に自分サイズに変更できたり、着物をコートに仕立て替えしたり、生地の思わぬおもしろみが発見できたりして、その満足度は高かったです。
染め直しでよかったことのまとめです。
- 好みの色に変えられる
- マイサイズの着物になる
- 裏地(八掛)も変更できる(新規購入または誂え染め)
- 地色や柄次第で、ヤケ、シミを隠せる
- 上前のスレなどを隠せる(上前と下前を交換して仕立てをする)
- 形を変えて仕立てができる(着物をコートに変更など)
- オーダーメイド感が味わえる
専門家とやりとりする中で、学べることも多く、着物を深く知ることもできました。
染め替えや色かけをするときの注意点
染め替えには素材が限定されます。「絹」のみです。ウールや木綿は染め替えできません。糸から染めている紬も抜染がむずかしいために染め替えできません。
生地が劣化したものや虫食いがあるもの、水や洗剤に耐えられない完全に弱ってしまった生地も無理です。
また、昔の反物は幅の狭いものがあります。せっかく染め替えしても、自分の寸法と合わないこともありますから、事前に寸法確認をしてもらいましょう。
古いきものを修復して再利用するには、それなりに手間やコスト、知識が必要です。でも、本当に着たいと思う着物なら手をかける価値はあります。
出来栄えの良さは生地の質にかかっています。「お直し診断」をしてもらい、信頼できるところへ託してください。
色を変えて、形を変えて、着物を蘇らせるご提案。いかがでしたでしょうか。
もともと、まだ使える古いモノの良さを生かして活用することが好きです。住まいも、フルリノベーションしています。社会も使い捨ての考え方から、リユース、リサイクル、そして、シェアの時代。
タンスに眠っている着物は、言い換えれば、処分されずに代々受け継がれてきたもの。アイディアとセンス、技術により、古い着物を世代を超えてシェアできるのです。
もう着物は着ないから別の形にリメイクしたいな。って方は、こちらも合わせてご覧ください。着物をほどいてリサイクル。もう着ない着物を活用した「着物リメイク」実例全15集
筆者プロフィール
着物好きが高じて、DTPデザイナーから着付講師へ転身。年間約8割を着物で過ごしている。2004年より、東京都内にて生徒とのコミュニケーションを大切にした、少人数制の着付教室は現在も進化中。