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夏の長襦袢の素材比較。涼しいのはどれ?初心者におすすめの夏の襦袢。

※この記事は、2017年に投稿し、2021年10月に更新(製品情報追加)しました

「着物でお出かけしたら、汗びっしょり! 夏はいろんな素材があるけど、涼しい長襦袢(ながじゅばん)はどれ?」そんな夏のお悩みで、お困りではありませんか?

長襦袢の素材が異なる時、吸汗・速乾性で涼しさはどの程度違うのか。実際に一日過ごした後の着用感を含め、初心者に一番おすすめしたい夏の長襦袢の素材を解説します。

はじめの一枚、この長襦袢なら後悔しない

 筆者のまわりを見ていると、初心者さんたちは、夏の長襦袢をだいたい2枚買う人が多いです。1枚目は失敗で、二枚目が正解。三枚目で落ち着く人もいます。結論を先に言うと、「麻の長襦袢」に落ち着く人が大多数です。

これで、このコンテンツは先を読まなくてもいいのですが、何で麻なのか。その理由を記事内で説明します。

例外は、こんな人

結論を先に申し上げたように、このコンテンツは「麻の長襦袢」押しです。ですが、麻の襦袢が向いていない人もいます

肌がデリケートな人は、麻はちくちくするみたいです。やわらかい「絹の長襦袢」をおすすめします。

絽の着物しか着ない人も、「絹の長襦袢」がいいでしょう。同素材が基本ですし、透ける着物が多いと、麻のデメリットである「シワ」が気になります。

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涼しさのために必要なこと

そもそも、暑さを感じるメカニズムとはなんでしょうか?

気温が高くなれば暑くなるのは当たり前。不快感や暑すぎの原因は、その後のプロセス、「吸汗性」と「速乾性」にあります。

この吸放湿性がスムーズであれば、衣類内を快適に保ち、汗ばむ日も心地よく過ごせますが、滞ると不快感アップ。あせもや熱中症の心配も。

「発汗から放湿まで」

1 発汗 気温や湿度が高くなると、身体は発汗して、上昇した体温を下げようとします。

2 吸汗(=吸水) 全身を覆う着物では、汗が衣服の中で留まる時間が長くなります。かいた汗は少しでも早く吸い取りたいものです。

3速乾(=放湿) 汗を衣類の外へ放湿します。汗が停滞していると体温が下がらず、さらに発汗という悪循環。素材には速乾性が求められます。

これらのプロセスが、素材によってどれくらい変化するのか、違いをみていきたいと思います。

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素材別の特徴~麻・絹・ポリエステル

素材別の特徴をみていきます。

天然原料から作られる植物性の天然繊維。

麻のメリットマイクロスコープの拡大写真を見ると、麻の繊維は中空。そのため、水分の吸収発散が早く放湿性に優れています。水に強いこと、汚れが奥まで入りにくいので手入れが楽。古くから、衣類、生活用品(シーツやふきんなど)に使用されている。

麻の側面と断面の写真。側面は繊維軸方向に線条が走り等間隔の節がある。 断面は多角形などで中空部分がある。(財団法人 日本紡績検査協会

麻のデメリット:繊維が粗硬なので、敏感肌の方はチクチク感じることも。動物性繊維のような柔軟さと保温性は無い。シワになりやすい。

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天然素材。その歴史は古く、紀元前2600年頃すでに使われていた記録がある。絹のメリット:生地の表面がやわらかく、なめらかで美しいツヤがある。しなやかさ、肌へのフィット感も特徴。張りのある麻に比べると、ほっそりと優雅に見せる。シワになりにくい。

絹の顕微鏡写真。繭の状態では2種類のたんぱく質(セリシン、フィブロイン)からなるが、精錬によって一方のたんぱく質(セリシン)を除去して銀白色の美しい光沢を持つ絹糸が得られる。(財団法人 日本紡績検査協会

絹のデメリット:日光により強度低下、黄変を引き起こす。夏場は汗とともに、身体にまとわりつくように感じる。放湿性には優れているもの、吸水性は麻に劣る。

個人差があるかもしれませんが、筆者の場合、紬の下に絽(絹)の長襦袢を着ると、汗で張り付き、寸法が合っているのに袖口から襦袢が見える。ということがあります。

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ポリエステル

化学繊維。絹に似せた光沢を求めて開発された。安価で流通している。現在、国内の合成繊維生産量の約半分を占めており、高機能の繊維が開発され、衣料品の用途を広げている。ポリエステルのメリット:濡れても特性が変化しにくいので、容易に洗濯できる。シワにならない。天然繊維と比較すると格段に安価

ポリエステルのデメリット:吸湿性に乏しく夏の高湿期は蒸れて体温がこもる。冬の乾燥期には静電気が発生しやすい。紡績糸の織り編み物に毛玉が発生しやすい。

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比較実験で使用する長襦袢のラインナップ

すべて筆者の私物での実験です。対象物が限定されますが、ご了承ください。

ポリエステル

  • 仕立て上がりポリエステル絽長襦袢(参考価格:約4,000円)
  • 仕立て上がり 爽竹ポリエステル長襦袢(参考価格:約15,000円)

本麻

  • 小千谷絽麻長襦袢の長襦袢(仕立て代込の参考価格:約45,000円)
  • 近江麻の長襦袢(仕立て代込の参考価格:約45,000円)

  • 正絹絽ウォッシャブル加工の長襦袢(仕立て代込の参考価格:約55,000円)

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実験1 吸水性素材別比較

着物で「暑さ」を感じるプロセスで説明した通り、汗を吸わない素材は暑さを倍増させます。

吸汗力の目安として、長襦袢の生地にスポイトで水5滴を落とし、完全に吸収されるまでの時間をストップウォッチで測ります。

ポリエステル(絽)の水分吸収時間:10分55秒

ポリエステル(爽竹)の水分吸収時間:瞬時に吸収

絽麻(小千谷)の水分吸収時間:瞬時に吸収

麻(近江)の水分吸収時間:瞬時に吸収

絹(絽)の水分吸収時間:1分5秒

吸水の早さは、麻、一部のポリエステルが瞬時に。他、1分~5分以上かかるものがありました。

素材 吸水時間
絽麻(小千谷) 瞬時に吸水
麻(近江) 瞬時に吸水
ポリエステル(爽竹) 瞬時に吸水
正絹絽ウォッシャブル 1分5秒
ポリエステル絽 10分55秒

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実験2 洗濯後、乾くまでの時間比較

放湿性の目安とするため、洗濯した長襦袢の乾燥時間を計測します。

麻、ウォッシャブル絹、ポリエステルを中性洗剤で手洗いし、室内で乾くまでの時間を測っています。つるした状態でしばらく放置し、水が垂れなくなってから乾燥までの時間を計測しました。

気温22度、湿度48%の日に実施

乾燥までの時間

素材 経過1 経過2 完全に乾くまで
絽麻(小千谷) 20分後袖は乾燥 50分後見頃ほぼ乾燥 2時間25分後に衿などすべて乾燥
麻(近江) 18分後袖は乾燥 50分後見頃ほぼ乾燥

2時間20分後に衿などすべて乾燥

ポリエステル(爽竹)

25分後袖は乾燥

58分後見頃ほぼ乾燥

2時間30分後に衿などすべて乾燥

正絹絽ウォッシャブル 20分後に袖は乾燥 55分後に見頃ほぼ乾燥

2時間40分後に衿などすべて乾燥

ポリエステル絽 絽の生地部分、濡れているのかいないかのか不明 衿の晒(さらし)部分、3時間40分後にすべて乾燥

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おすすめ長襦袢が麻の理由

以上の実験により、吸水性と速乾性の実験が優秀だったことがわかりました。しかし、数値だけだと、実際は爽竹とあまり変わらなかったことも確かです。

そこで付け加えたいのが、着心地です。「真夏日はもう麻しか着れない」と、講師たちは口々に言います。涼しさの持続性が、一番なのです。
その他の麻のメリットは以下の通りです。

  • 生地がしっかりしていて透けが少ない
  • 肌にベトベトはりつかない
  • 自宅で洗濯できる
  • 天然素材の中で比較的安価

麻という素材は、化学繊維と比較すると値段が高めではあるものの、5月~10月までの約半年を気持ちよく着用できることを思えば、決して高すぎる値段ではないと思います。

ちなみに、同じ麻素材である、小千谷絽麻と近江麻の着用感の違いを。涼しさ、快適さは一緒です。筆者は近江麻のハリ感が麻らしくて好み。地紋がなく、丈夫で長持ちしています。

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実験後の感想

ポリエステル爽竹は、「これがポリなの?」というひんやりとした肌触りがありました。実験では、瞬時に水分を吸収し、乾燥も早かったです。羽織った瞬間は涼しいとよく言われています。

ただし、長時間過ごすと天然繊維との違いがわかります。

ポリエステルという素材は、その構造から機能を追加しやすく、スポーツウェアでおなじみ。登山用下着などでも大活躍。長襦袢としても、まだまだ進化をとげるかも。と期待を大きくしていますが、現在のところはまだしばらく、初心者さんには、麻の使用をおすすめしています。

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 製品情報

お問い合わせが多かったので、筆者が着用している長襦袢の製品情報をお伝えします。

製品*近江の麻長襦袢(本麻100%)
価格 : 27,000円(2015年購入当時)
仕立て代金:14,040円

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最近はゆかたに衿をつけて着物のように着たいという人が増えています。透け感のある浴衣や着物が多いために長襦袢を着ると安心ですが、その前に素材をチェックしましょう!

かつて着物の素材は通気性のよい、天然の素材がほとんどでした。麻、綿、絹などです。 ところが最近は化学繊維が増え、通気性の悪い着物、浴衣、長襦袢を着る人が増えました。特殊な加工をしているポリエステル以外は、空気が通らず汗が蒸発しないので、蒸し風呂状態です。着物は最低でも3枚の重ね着。そして全身を覆います。「柄がかわいい」「値段が安い」でも…??

素材の機能性は、冬よりも夏に発揮されます。自分が心地よいと思える長襦袢の素材を再検討してくださいね。

筆者プロフィール

着物好きが高じて、DTPデザイナーから着付講師へ転身。年間約8割を着物で過ごしている。2004年より、東京都内にて生徒とのコミュニケーションを大切にした、少人数制の着付教室は現在も進化中。

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