16Jan
歌舞伎座レポート第二弾です。今回は(令和2年1月10日)着付け教室6名の生徒さんたちと、一等席で着物で観劇してきました。一等席ではどんな着物を着ているの?長時間座りっぱなしで苦しくない着付けは?この記事は観劇の着付けポイントに重点をおいています。着物の種類については、歌舞伎座初心者の生徒さんたちとお出かけした過去の記事に詳細をまとめています。
目次
歌舞伎座ではどんな着物を着るの?
小紋
紬
江戸小紋
色無地
付け下げ、訪問着
この日の筆者の着物コーデ
紬の付け下げに綴れのおしゃれ袋帯
- フォーマルバック
- サブバック
- オペラグラス
- ハンカチ二枚(一枚は大判ハンカチ。お弁当の時、膝の上に広げる)
- 扇子
- エコバック(コートをたたんで入れ足元に置く)
- 小さめお財布(長財布はかさ張るので小さいお財布に)
- メイク用品
- スマホ
一等席、周りを見渡すとこんな着物が多かった
小紋—5名
紬—3名
お召し—3名
江戸小紋、色無地—8名
付下げ、訪問着—12名
ざっと見渡したところ、準礼装をメインに、キレイ目な小紋、礼装よりのお召しが多かったです。色無地、江戸小紋は背紋ひとつの紋付の方も見かけました。
三階席後方には、ジーンズの観光客もたくさんいるので、同じ歌舞伎座内でも、世界が全然違うな、と思います。
歌舞伎観劇の日の過ごし方(着物での動き)
観劇当日の一日です。観劇時間は5時間弱ですが、トータルでは9時間弱着物を着用することになります。これは、キレイだけでなく、楽な着付け、必須ですね!
8:30 着付け開始。紬の付け下げとおしゃれ袋帯に決定。
9:00 自宅出発→電車はまだ混んでいる。コートがないと心配。
10:00 早めに現地到着
10:10 地下のお弁当屋さんで予約したお弁当を受け取る
10:30 生徒さんと待ち合わせ。チケット配布
10:40 入場→イヤホンガイドをレンタル
10:50 着席→コートを袖畳みしてしまう。
11:00 開演→一幕目
11:27 一幕目終了15分の休憩。
11:43 二幕目開始
13:07 二幕目終了30分の休憩→自席でお弁当→その後お化粧室が混んでいてぎりぎりの時間に戻る
13:37 三幕目開始。食後、帯がきつい!?乾燥が気になる。ちょこちょこ水分補給。
14:25 三幕目終了20分の休憩→隣席の生徒さんとおしゃべり。
14:45 四幕目開始 胃の辺りが気になり、帯、枕のガーゼを少し下げる。劇場内の室温が高い。扇子で仰いでいる人も。
15:47 四幕目終了
16:00 歌舞伎座前で写真撮影後、解散
17:00過ぎ 帰宅
観劇後の生徒さんの感想
- 上前が開いた。何度も直した。
- 襦袢の紐が苦しい
- 暑すぎた
- 緊張して背中や腰が痛い
観劇の時の着付けポイント
上記生徒さんの感想をふまえて、「観劇の時の着付けポイント」を考えてみたいと思います。
一般的な着付けの注意点
- 上前幅をやや広めにとる
- 紐の強さを加減する
- 褄を上げた着付けをする
- 帯位置をやや低くする
- 枕の紐は帯の真ん中くらいまで下げる
- 夏は汗取り冬は防寒。館内で調整できるように
痩せている方や胃の上を圧迫したくない方の着付けの注意点
- アンダーバストに補正タオルを一枚追加する
- 襦袢の紐はゴム製にする
- 胸紐はモスリンでなく、コーリンベルトを使う
以下、解説していきます
上前幅をやや広めにとる
長時間座っていると、上前が左に流れて着物のすそが床についていることがあります。着付けのとき、いつもよりもちょっと身幅を広めに着つけると、左に流れにくくなります。
紐の強さを加減する
楽な着付けは、紐や帯の位置と締め加減につきます。締めなくてもいい紐は、襦袢の紐、着物の胸ひも、枕の紐です。
褄(つま)を上げた着付けをする
褄(つま)とは、着物の裾(すそ)の両端のこと。下側の褄は10㎝~20㎝。上側の褄は5㎝ほど上げると裾つぼまりをキープでき、だらしなくみえません
帯位置をやや低くする
座りっぱなしの時は、帯位置を少し下げると楽に過ごせます。わかりやすくお見せするために、和装ボディの上に補正タオルのみ巻きつけた状態で帯位置の説明をします。
アンダーバストまで帯を上げると、胃が圧迫されます。
指三本分くらいは帯を下げたいですね。いつも幅出ししている人は、調整して少なめに。
枕の紐は帯の真ん中くらいまで下げる
同じく、和装ボディの上に補正タオルだけの状態で説明しますね。
枕カバーが帯の上線にあると、締め付け感があります。
枕の紐はできるだけ下へ落とします。筆者は、帯の真ん中くらいまで下げています。
アンダーバストに補正タオルを一枚追加
タオルを三つ折りにしアンダーバストに入れます。やせている方には特におすすめ。
ゴム製紐またはコーリンベルトの使用
ゴム製品はゴムの収縮で押さえますので、紐よりも締め付け感は少ないです。着物の胸紐をコーリンベルトに替えるのも有効です。尚、コーリンベルトは、クリップが肋骨(ろっこつ)に当たらないよう、ウエスト位置につけることを忘れずに。
館内の暑さ対策
「暑すぎて、〇〇さんたちとビール飲んで帰りました」これは、後日生徒さんから届いたメール。確かに、暑かったですよね…館内。1月とは思えないくらい汗かきました。
夏は汗取り、冬は防寒。館内で調整できるように
冬期、寒いからと、レギンス、ヒートテックと下に着こみすぎると室温が上がった時に調整できずに困ります。後から脱げるレッグウォーマー、手袋、衿元のストールくらいがよいでしょう。夏期は汗取りできる下着を着用しましょう。汗&冷房で身体が冷えます。
夏用の和装小物を使用して通気性を確保
汗をかいても、発汗されれば快適度は上がります。帯枕、帯板などを夏用にするだけで、体温調節は楽。
これは、麻の帯枕です。へちまよりも形がかっちりしていて、冬物の礼装帯も形が崩れません
夏用メッシュの帯板です。
どうして観劇の時は帯を下げるの?
歌劇用の椅子は、通常の椅子と違い、座面が傾斜しているのをご存知でしょうか?
歌舞伎座一等席のシートは、この傾斜がゆるやかで、かなり楽な方だと思うのですが、座面がお尻に向かって下がるようになっていて、沈み込むような感じがあります。そのため長時間同じ姿勢を保っていると、帯がせりあがってくるような感じることがあり、いつもは全然気にならない紐類が強く感じたり、肋骨に当たるように感じる方もいるのです。
観劇の時は帯を少し下げた方が楽に過ごせます。それ以外の工夫では、アンダーバストの下に補正タオルを追加してクッションにしたり、紐類をゴム製にして締め付けを軽くしたり、ということが考えられます。
腰や背中がいたくなるんです。どうして?
持病、姿勢、骨格により、原因は人それぞれですが、以下のことに気を付けるとだいぶ楽になります。
- 観劇中、腰が90度に近い姿勢になるように気を付ける
- 深い呼吸を意識する
- 必要のない紐は締め付けない
- 足をのばす
- 休憩中は立ち上がって歩き回る
- 何をやっても背中がいたい
以下、解説していきます
観劇中、腰が90度に近い姿勢になるように気を付ける
体幹がなくてそれ自体つらい方は、薄いタオルをまるめて、ちょうどいい場所に敷くと姿勢が安定することがあります。極端に座高が高くなるとまわりの人の迷惑になりますからほどほどに。
深い呼吸を意識する
着物を着ていると、無意識に緊張し、呼吸が浅くなっています。深い呼吸を心がけます。
必要のない紐は締め付けない
襦袢の紐、枕の紐、補正の紐などは、締め付けません。血行不良の原因です。
足をのばす
一等席はシートも足元もゆっくりした設計です。手荷物は自分の足元左右どちらかへ寄せ、なるべく足を伸ばしましょう。これも血行不良防止のため。
休憩中は立ち上がって歩き回る
飛行機の中のエコノミークラス症候群防止と一緒ですね。動いて、歩いて、姿勢を変えてストレッチ。
何をやっても背中がいたい
体型によるものかも。厚紙の入っている帯枕は背中に当たるひともいます。低反発のこんな帯枕もあります。
本当にいるの?着物警察
結果を先に申し上げると、事の真偽はわかりません。私は何度も着物で歌舞伎座へ行き、耳を澄ませていますが、お化粧室の中などでも、それっぽい人は見かけたことはありません。 生徒さんからも、そういうことは聞いていません。
この手の方に会われるのは、かなりレアケースなのではないかと思いますし(筆者の主観です)それは思いやりからの進言であると思いたいです。
受け取る側も、心配しすぎたり過度に落ち込んだりしないで、「一部の意見」として正しく受け止め、今後の着こなしの参考にされればいいだけのことだと思います。
「着物で歌舞伎座へ!」は、多くの着物好きにとって憧れです。でも実際に、着物で5時間弱座り続けることは、楽ではありません。苦しくない観劇時の着付け。ぜひ、参考になさってください。ただし、「楽な着付け」を追求するあまり、着崩れしてはいけません。絶対にゆるめてはいけない「腰ひも、帯締め、帯の下線」は、いつも通りですよ!
本文中では、着付けに関する生徒さんの反省点を掲載しましたが、それ以上の前向きなコメントもたくさんありました。
- 達成感です!
- 皆様の着物や帯も見ていてうっとりしました。
- 歌舞伎初体験は、とても有意義な時間でした。
非日常が味わえる歌舞伎座。ぜひまたご一緒しましょう。
筆者プロフィール
着物好きが高じて、DTPデザイナーから着付講師へ転身。年間約8割を着物で過ごしている。2004年より、東京都内にて生徒とのコミュニケーションを大切にした、少人数制の着付教室は現在も進化中。